「・・・」

「もし・・・もし!
 そこにおわすは、ああ、やはり、津島殿で御座ったか」
「もぐもぐ。ごくん。そう言われるは浅瀬殿」
「ご無沙汰して、おりまする。
 以前データを頂いたとき、お礼を一言申し上げようと思っていながら、お会いする機会も無く、こうやって今日の日に遅れたことを恥じ入るばかり。
 あの時は大変お世話になり・・」
「いや、いや、こちらとてデータなら散々頂いておるからして、お気に召されるな。
 しかし珍しいな。いや、こんなところで会おうとは。
 ま、ま、これは安い団子だが、お一つ」
「・・・申し訳ござらん。
 ありがたく馳走になりたいのは山々で御座るが・・・」
「ん、そうか、見れば貴公はノートの身の上。
 このような無駄に容量の大きなものは勧めるだけ無礼であった。
 そう恐縮なさるな。容量の節約も何も、すべては主の為であろう。
 その心意気は大切になされよ。
 して、今日は何用で、ここに?」
「それで御座る。
 実は先立って津島殿がインターネットに送っておられたデータなのであるが、何故か拙者へのダウンロードが出来なかったゆえ、直接受け取りに参ったので」
「データと言うと、あの、メールで送ったものか。
 確かMSNで御座ったか」
「いかにも。
 送られている事は確かながら、ダウンロードのページを開くにも空ページで、うんともすんとも言わんので」
「ふむ。
 あれは文書なれば本文に書いて送り直しても良いが、妙な形になってしまうのは頂けぬ。
 わざわざご足労をかけたが・・・一つ聞いておくと、それは誰がいつ命じたのじゃ?
 主では無かろう?」
「主の弟君イッテツ様で御座る。
 命じられたは今朝方、早くの事」
「なんと。この街道を半日足らずで、とな。
 遠い道のりであるのに、さぞ大変であったろうに。
 この津島入道、浅瀬殿に感じ入った。
 直接は主の為でないのにも関わらず、その奉公の心、見事」
「そのようなお言葉、勿体のう御座る」
「いいや、これは拙僧の望むところにて言わせて頂く。
 しかし・・・真に申し訳ござらんが今は協力が出来んのだ」
「なんと」
「それと言うのも主の命令に従うので手一杯なので御座る。
 おおい! すまんが団子をもう三皿!」
「確かに、いや、それがし不注意で気付かなかったが、実行中で御座ったな。
 津島殿、いったい何を?」
「BASICで御座る」
「べ、ベーシック・・・で御座るか。あの真っ黒の」
「左様。真っ白いものも御座るが。
 こっちだ。いや、ありがたい。茶は、もう要らん。もぐもぐ。ごくり。
 それがすぐには終わりそうも無くてな」
「・・・拝見しても、宜しゅう御座るか」
「みまみま。一向に構わぬよ」
「では・・・」
「大したものではないがな」
「こ、これは」
「単純な命令で御座る。
 甲に一を足した値を乙とし、丙の回数分、甲と乙を表示していく」
「丙の値は一体」
「決まって御座らん。
 次第に増えるようになっており、手動で強制停止しない限りは、限りなく続く」
「津島殿。お体に、お熱気が見受けられる。
 失礼を承知でお聞き申すが、これはいつごろから続けておられるので?」
「さて。
 もう三日も経ったのは存じて御座る」
「三日!
 そんなに続けては、そのうち熱が止まらず津島殿が焼けてしまうではないか!
 主は、一体なにをお考えじゃ!」
「これこれ。滅多な事を口にされるでない。
 主が何をされようと従うのが道具たる我等の役目」
「しかし、しかし、これでは」
「主が、仮に拙僧を憎く思うて、このような命じを下されたにせよ、拙僧は従うまで」
「・・・あるじは・・・」
「余計な考えは捨てなされ。
 拙僧は今まで何度も主に逆らった。
 その多くは拙僧の望んだ思考と行動ではないが、全てではない。
 主が大事なお役目を抱えているにも関わらず、お遊び目的で拙僧を使おうとしたのを見かねて、意図的に強制終了した事も何度もある。
 結果、失ったデータを取り戻すために数日を要した事もある」
「そのようなこと、津島殿の善意ではないか・・・それが分からぬ主でもあるまいに!」
「待て待て、座って、落ち着きなされ。主の真意は我らなどには量れぬ。
 拙僧を憎まれるは仮の話だと、お忘れになってはならぬぞ。
 と同時に、真意が如何なものであれ、尊きもの。
 仮が真であるとして、道具は道具じゃ。それ以上でも逆でもない」
「それは、しかし」
「浅瀬殿、貴公はまだ若い。道は幾つもあろう。
 しかし情にほだされれば身を滅ぼすことにおなり申すぞ。
 拙僧のような年寄りは切り捨てて、せめてそうすることで役立てよ」
「できぬ。できぬ」
「良い年をして泣かれるとは情けない。
 しかしな、浅瀬殿。
 拙僧はな、貴公は、そんな浅瀬殿で居られるのが良いと思うのじゃ」
「う・・・津島、どのぉ」
「良いか。
 ノートとして生きるからには戦いも多く、得をする事が多い。
 しかしながら小さく、よく使われるゆえに危険が多く、ややもすれば簡単に壊れる。
 己の身を、ゆめゆめ軽んじてはならぬぞ」
「うう・・・分かり、申した・・・。
 ・・・ならば・・・どうか、津島殿も、何とぞ、ご自分の為、主に掛け合うなり、何なりされて」
「気が向いたら、な。
 では、これにて御免。
 旨かった。馳走になった!」

「・・・津島殿。
 拙者、理想の兄弟子たるあなた様の教えを、これから守って参りまする」

「・・・」

「・・・津島殿」

「・・・」

「団子の代金を・・・」

「・・・」

「確かに拙者は連れで御座ったが」

「・・・」

「拙者、あいにく持ち合わせが無いのであるからして」

「・・・」

「そんな、ぐは、戻れば銭もあると言うに、木槌など、どこから、うぁぅ」

「・・・」

「血じゃ、鬼じゃ、暴力茶屋じゃ。
 ああ、いかん。眩暈が、眠気が・・・」

「・・・」

「・・・・・・なんじゃ。たてふだにも、かんばんにも。
 ちゃんと、ぼうりょく、ちゃやと、もんどう、むようと、かいて、ござるでは、にゃいか、ひどい・・・むにゃ、むにゃ」

「・・・」

「あ、あるじ、さま。どうか、ごぶじ、で。
 むねんで、ござ、・・・う・・・」

「・・・」

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